公用文とは

公用文とは、国の府省庁が作成する文章です。例えば、告示や通知、統計資料、報道発表資料などが公用文です。公用文の範囲は、「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告) 」の中に記載されています。

大別 具体例 想定される読み手 手段・媒体の例
告示・通知等 告示・訓令、通達・通知、公告・公示 専門的な知識がある人 官報、府省庁が発する文書
記録・公開資料等 議事録・会見録、統計資料、報道発表資料、白書 ある程度の専門的な知識がある人 専門的な刊行物、府省庁による冊子、府省庁ウェブサイト
解説・広報等 法令・政策等の解説、広報、案内、Q&A、質問等への回答 専門的な知識を特に持たない人 広報誌、パンフレット、府省庁ウェブサイト、同SNSアカウント

出典:「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告) 」P5の表から法令に関する列を除いて抜粋

「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告)」では、「公示・通知等」や「記録・公開資料等」に関しては、公用文のルールに従うことが基本とされています。一方、「解説・広報等」に関しては、必要に応じて読み手にふさわしい書き方をすることも認められています。現代では、昭和27年の「公用文作成の要領」の作成時に想定されていた範囲を超えて、さまざまな文章が国民に向けて作成されているためです。「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告)」の中でも「内容のうちに公用文における実態や社会状況との食い違いが大きくなっているところが見られる」と書き記されています。

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公用文の書き方

公用文は、「公用文作成の要領」や「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告) 」に従って書きます。

漢字の表記(漢字の閉じる・ひらく)

公用文では、常用漢字表にある漢字を使用します。漢字の表記については、公用文も新聞などの文章も大きな違いはありませんが、一部の表記が異なります。

公用文と新聞などとの違いとして、日本新聞協会では、常用漢字表に含まれていても「且、又、附」など7つの文字は使用しないと定めています。

常用漢字表にない漢字の書き方

常用漢字表にない漢字は、ひらがなで書いたり、別の言葉に置き換えたりします

常用漢字表には、漢字自体は使用できるが、読み方が使用できない語があります。このような語を「表外音訓(ひょうがいおんくん)」と言います。例えば、円ら(つぶら)、活かす(いかす)などが表外音訓です。

1. ひらがなで書く。訓読みの語はひらがなで書きます。例えば、「嬉しい → うれしい」「予め → あらかじめ」「則る → のっとる」などです。音読みの漢字熟語もひらがなで書きます。例えば、「斡旋 → あっせん」「杜撰 → ずさん」「石鹸 → せっけん」などです。

2. カタカナで書く。動植物の名称などで常用漢字表にないものはカタカナで書きます。例えば、「鼠→ネズミ」「駱駝→ラクダ」などです。

3. 言い換える。常用漢字を使った別の語に置き換えられる場合には、言い換えます。例えば、「活かす → 生かす」「哀しい → 悲しい」のように同じ読み方の常用漢字に言い換えます。そうでない場合には、「捺印 → 押印」「軋轢 → 摩擦」「安堵する → 安心する」「庇護する → かばう」のように常用漢字表にある漢字を使った言葉に言い換えます。

4. 混ぜ書きで書く。他に言い換えがない場合には、常用漢字外の漢字だけをひらがなで書く「混ぜ書き」を行います。例えば、「改竄 → 改ざん」「研鑽 → 研さん」などです。

「混ぜ書き」は読みにくいという批判が多く出されているため、新聞などの出版物では、一部の語をのぞいて混ぜ書きを避けています。

5. 読み仮名をつける。他に言い換えがない場合で混ぜ書きを行わない場合には、読み仮名をつけます。例えば、「改竄 → 改竄(かいざん)」「研鑽 → 研鑽(けんさん)」などです。

【参考】読み仮名の付け方
読み仮名は「ルビで示す方法」と、「該当する語の後ろにカッコ内で読み方を示す方法」があります。ルビを付ける際には、公用文では常用漢字表にない漢字の部分だけにルビを付けます。これを「パラルビ」と言います。一方、新聞などではルビを付ける際には熟語すべてにルビを振る「総ルビ」を基本としています。該当する語の後ろにカッコ内で読み方を示す場合には、熟語についてはカッコ内に読み方を全て記載します。例えば、「無花果(いちじく)」のような形です。新聞などでは読み仮名は2回目からは省略します。

常用漢字表にあってもひらがなで書く場合の書き方

常用漢字表に存在していても、代名詞、連体詞など一部の語については、ひらがなで表記する語があります。

代名詞。「これ、それ、どれ、ここ、そこ、どこ」などの代名詞はひらがなで書きます。

助詞。「くらい、ほど」などの助詞はひらがなで書きます。

助詞の「など」に関してはひらがなで表記しますが、公用文では「等」を「とう」と読む際には漢字で「等」と表記します。

助動詞。「〜ようだ、〜ない」などの助動詞はひらがなで書きます。

補助用言。「〜していく(行)、〜していただく(頂)、〜してくださる(下)、〜してみる(見)、〜してほしい(欲)、〜してよい(良)」などの補助的な動詞形容詞形容動詞はひらがなで書きます。

補助用言とは、動詞・形容詞の本来の意味や用法が薄れて、上にくる文節を補助する役割をする用言を意味します。ひらがなで表記するのは、補助用言として使用する場合だけで、本来の、動詞や形容詞として使用する場合は漢字で表記します。例えば、「山へ行く」などは本来の動詞として使用しているので、ひらがなではなく漢字で表記する必要があります。

形式名詞。「こと(事)、とき(時)、ところ(所)、もの(物・者)、うち(内)、ため(為)、通り(とおり)、ゆえ(故)、よう(様)、わけ(訳)」などの形式名詞はひらがなで書きます。

形式名詞とは、実質的意味を持たずに形式的に使用される名詞を意味します。例えば、「時」を、本来の意味である「時間」の意味で使用する場合には漢字で「時」と書きます。一方、形式的に「いざというとき、行けないときは連絡する、困ったときの神頼み」といったように形式的に使用する場合には、ひらがなで「とき」と書きます。使い分けに迷う場合の方法は、公用文では示されていませんが、新聞のルールではひらがな書きにします。

接続詞。「さらに、しかし、しかしながら、したがって、そして、そうして、そこで、それゆえ、ただし、ところが、ところで、また」などの接続詞はひらがなで書きます。

接続詞は、漢字を使用する場合とひらがなを使用する場合があります。「及び・又は・並びに・若しくは」などは漢字で書きます。

接続詞の例 公用文での表記(使い方) 新聞での表記
および 及び(A及びB) および
または 又は(A又はB) または
ならびに 並びに(A並びにB) ならびに
もしくは 若しくは(A若しくはB) もしくは
なお なお(なお、Aしてください) なお
ただし ただし(ただし、Aがある) ただし
かつ かつ(AかつB) かつ
したがって したがって(したがってAである) 従って
あわせて あわせて(あわせてAをする) 併せて
それゆえ それゆえ(それゆえAである) それ故

連体詞。「ある、あらゆる、いかなる、いわゆる、この、その、どの」などの連体詞はひらがなで書きます。

連体詞は、漢字を使用する場合とひらがなを使用する場合があります。「来る、去る、当の、我が」などは漢字で書きます。

接頭・接尾語。「お(願い)」「(二人)とも」「(私)たち」などの接頭語、接尾語はひらがなで表記します。

副詞。「いろいろ、おおむね、おのずから、いかに、いずれ」などの副詞はひらがなで書きます。

漢字本来の意味が薄れている語。「ありがとう、おはよう、こんにちは、さかさま」などの語は、漢字が持つ実質的な意味が薄れたり失われたりしているためひらがなで書きます。

当て字。「いかん(如何)、いつ(何時)、さすが(流石)、すばらしい(素晴らしい)、たばこ(煙草)、ちょっと(一寸)、ふだん(普段)、めった(滅多)」などの当て字はひらがなで書きます。「梅雨」など一部の当て字は漢字のまま表記します。

常用漢字表にあっても法令がひらがなの場合。「おそれ(虞)、かつ(且つ)、ただし(但し)、ほか(外・他)、よる(因る)」などは法令にあわせてひらがなで書きます。

常用漢字表にない漢字を使ってもよい場合

公用文では次のような場合に、常用漢字表にない漢字を使うことができます。必要に応じてふりがなやルビを振ります。

固有名詞。人名や地名といった固有名詞は、常用漢字表にない文字も使用できます。

専門用語。専門用語や特殊用語は、常用漢字表にない文字も使用できます。

「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告) 」では、児童・生徒や日本語を母国語としない人に向けた文章の中では、常用漢字表の漢字でも、必要に応じてひらがなで書いたり、ルビを振ったりすることもできることが示されています。(例:語彙 → 語い、進捗 → 進ちょく)

送り仮名の付け方

送り仮名を付ける際には、原則として語幹を漢字で、活用語尾をひらがなで表記します。公用文でも新聞などの文章でも、送り仮名の付け方の原則は変わりません。しかし、一部、送り仮名を省略する場合の表記ルールが異なります。

公用文で送り仮名を省略するケース(1)「許容」に該当する場合

公用文では、一部、複合の語については、送り仮名を省略して書きます。これは学校教育や、新聞などの表記ルールとは異なります。例えば、新聞では「うりあげ」を「売り上げ」と表記しますが、公用文では「売上げ」と表記します。

複合の語とは、「書換え(書く+換える)」のように、二つ以上の言葉があわさって作られる言葉です。

このルールは、内閣告示「送り仮名の付け方」における通則6の「許容」で定められています。通則6の「許容」とは、メインのルールである本則から外れて、送り仮名を追加したり省略したりするというルールです。学校教育や新聞ではこの「許容」を採用していませんが、公用文ではこの「許容」のルールを採用しているため違いが発生します。(参考:「正しい送り仮名の原則・ルール」)

「許容」ルールに則り、送り仮名を省略する複合語の例

送り仮名を省略する語として、「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告) 」P15において、186語が定められています。

単語 公用文での表記 新聞での表記
うけいれ 受入れ 受け入れ
てつづき 手続 手続き
もうしこみ 申込み 申し込み
うちあわせ 打合せ 打ち合わせ
とりきめ 取決め 取り決め
はなしあい 話合い 話し合い
みつもり 見積り 見積もり
とりけし 取消し 取り消し
しはらい 支払 支払い

ただし、「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告) 」では、公用文のルールとして「許容」にあたる語の送り仮名を省くことをルールとしつつ、文章の読み手によっては送り仮名を省かずに学校教育や新聞のルールで書いてもよいという原則を示しています。公用文を読み慣れていない人にとっては、例えば「手続」や「申込み」といった表記に違和感を感じる場合があるためです。

公用文で送り仮名を省略するケース(2)「慣用」に該当する場合

公用文では、複合の語のうち、慣用的に送り仮名の省略が固定していると認められる語については、送り仮名を省略して書きます。これは内閣告示「送り仮名の付け方」の通則7で示されているルールです。通則7とは、メインルールである本則から外れて、一般に広く普及しているため送り仮名を省略することを認めるというルールです。(参考:「正しい送り仮名の原則・ルール」)

通則7自体は、公用文でも新聞などでも採用していますが、このルールを適用する単語は、公用文と新聞などで異なります。例えば、公用文でも新聞でも「うりあげきん」は「売上金」といったように「り」と「げ」を省略して表記します。一方、「とりくみ」は公用文では「取組」と表記しますが、新聞などでは「取り組み」と記載します。

慣用的に送り仮名を省略する複合語の例

単語 公用文での表記 新聞での表記
とりくみ 取組 取り組み
さしおさえ 差押(命令) 差し押さえ
しはらい 支払 支払い
てびき 手引 手引
うけつけ 受付 受付
けしいん 消印 消印

その背景には、「どの語の送り仮名を省略するのが一般的か」といった判断が、公用文と新聞などとで異なることが考えられます。いずれも、内閣告示「送り仮名の付け方」(1973年6月)における通則7を基準としていますが、細かい部分で違いがあります。公用文では内閣告示「送り仮名の付け方」に加えて、公用文における漢字使用等について(2010年11月)法令における漢字使用等(2010年11月)に記載されている例を参照しており、新聞などの出版物では通則7を基準として独自にルールを定めています。そういった違いから、単語ごとに送り仮名が異なっていると考えられます。

数字の書き方

算用数字と漢数字の表記

横書きでは算用数字を使い、縦書きでは漢数字を使います。算用数字を使う場合には、半角と全角を統一して使います。

2021年10月25日午後11時40分

大きい数字単位の表記

1万以上の数字には万・億・兆の単位を使い、それ以下の数字には千・百を使いません。

7百人、9千400円

700人、9400円

漢数字の表記

数字としての意味が薄れている場合などには、横書きでも、算用数字ではなく漢数字を使います。

一つ(ひとつ)、二つ(ふたつ)〜。「二つ目の問題、二つ星レストラン」などと書く場合には、漢数字で書きます。

一人(ひとり)、二人(ふたり)〜。「一人娘、お二人様」などと書く場合には、漢数字で書きます。

慣用句や熟語。「一人二役、七福神」などと書く場合には、漢数字で書きます。

語全体で特定の概念を示す場合。「七五三、日本三景、四十九日」などと書く場合には、漢数字で書きます。

記号

句読点

句点には「。」を、読点には「、」を使用します。必要な場合には、句点にカンマ「,」を使用することができます。

中点

単語を並列で記載する場合などには、中点「・」を使用します。

単語を列挙する場合。「山・川・谷」と列記する場合などには、中点を使用します。

外国人の名と姓の間。「ウィリアム・J・クリントン」などと表記する場合には、名と姓の間に中点を使用します。「エンパイアステートビル」といった外国の地名などには中点は入れません。

長くて判別しにくい語。「ケース・バイ・ケース」などと表記する場合には、中点を使用します。

箇条書きの文頭。「・項目1」などと表記する場合には、文頭に中点を使用します。

引用符

会話や語句の引用には「」を使用します。二重に引用する場合や書籍名には『』を使用することができます。例えば、「今回は『最新公用文用字用語事例集』を参照しました」といった場合です。

丸括弧

語句や文の後に注記する場合には()を使用します。例えば、次のような場合です。

  • (詳細は別途資料で解説しています。)
  • 今回の事業は終了しました(追加募集はありません。)。

公用文では、()や「」の中が文章の場合に、カッコの中に句点を打ちます。例えば「この議論は終了していない。」のような場合です。一方、新聞などの文章では、カッコの中には句点をつけないという違いがあります。「新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告)」では、広報や解説を目的とした文章では、新聞などの書き方に則って、カッコ内の句点を省略できると記載されています。(参考:句読点の使い方

アルファベット

アルファベットを記載する際は、全角・半角の定めはなく、文章内で統一して書きます

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公用文の本

公用文を書く際の辞典として使用できる書籍や、原則が記載された本が出版されています。今回紹介したような「漢字で書くか、ひらがなで書くか」「送り仮名はどうするか」といった疑問に対して、全ての単語を記憶するのは難しいことです。そのような場合、疑問に思ったら辞書を引いたり、本で確認したりすることで、簡単に確認できます。

ぎょうせい公用文研究会『最新公用文用字用語例集 改定常用漢字対応
約1万語が掲載された用字用語辞典です。表記に迷う語があった際にすぐに確認できます。

礒崎 陽輔『分かりやすい公用文の書き方 改訂版(増補)
書き方の基本が学べます。原則を学ぶ際のルールブックとして利用できます。

文章校正ツールを使った文書の自動チェック

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参考文献