ボイス&トーンとは何か

ボイスはサービス自体の性格を、トーンはその態度をあらわします。サービスのボイス&トーンを定めることで、サービスが「どのようなものであるか」を定義することができます。

ボイスは、人の性格に置き換えるとイメージしやすくなります。人の性格がそれぞれ違うように、ボイスとは個性であり、文章からキャラクターが分かるものです。たとえば、倫理観がある、誠実、元気があるといった価値観そのものを伝えます。

一方、トーンは態度に近いものです。たとえば、難関資格にパスして喜ぶ家族に声をかける時、仕事でミスをして落ち込む友人に語りかける時といったように、同じ性格の人でも状況によって態度は異なります。トーンによって、状況に応じた振る舞いを表現します。

ボイス&トーンを定めるメリット

ボイス&トーンを設定することによって、サービスを通して一貫した表現を行うことができます。一方、ボイス&トーンが定められないサービスでは、サービスが多重人格のような状態に陥りがちです。多くの関係者がいるチームでは、指針を持つことで筋の通った表現が行いやすくなります。成果物の表現を判断する際に、主観ではなくボイス&トーンに一致しているかどうかという観点で議論することができます。

ボイス&トーンの目的を定める

ボイス&トーンを作成する際には、まずボイス&トーンの目的を定めます。そのためには、まず会社や製品のビジョンを明確にする必要があります。ボイス&トーンの目的には、会社や製品のビジョンを体現するためのより具体的な指針を定めます。たとえば『街ぐるみで子育てを』という製品ビジョンに対して、ボイス&トーンの目的は『子供や職員だけではなく、街全員で子育てする未来を作る』と設定することができます。

ボイスを定める

ボイスを定める際には、ボイスチャートを作る方法があります。ボイスチャートには、サービスのボイスを定義したうえで、それぞれのボイスの特徴を細かく指定します。細かく指定することによって、サービスを通して一貫した性格を保つことに役立ちます。チームが複数人いる場合には、全員の認識を統一しやすくなります。チャートを作らない場合には、「フレンドリーだけれど、踏み込みすぎない」といったように、該当するボイスが意図するものと意図しないものを明らかにしておきます。

ボイスの書き方

ボイスは、サービスのキャラクターを単語で形容します。たとえばAirbnbのボイスは、「率直、包括的、思慮深い、元気」(straightforward, inclusive, thoughtful, and spirited.)と設定されています。

その他のボイス例
優雅な、友好的な、伝統的な、遊び心がある、洞察力がある、意外性のある、効率的、信頼性がある、わかりやすい、実直な、など

チャートの書き方

ボイスの内容を深めるために、より詳細なコンセプトや単語などの意味を明確にします。ボイスが意図することと、意図しないことを書きます。たとえば、「元気だが、うるさくはない」のようなイメージです。該当がない項目は省略できます。

1. コンセプト。 サービスを通じて経験してほしいことを書き出します。
2. 単語。 コンセプトの概念や人格を確立するような重要な単語を書き出します。
3. 文章。 文章上の注意点を書き出します。動詞や形容詞などの品詞の役割や、文章の形を指定します。
4. 文法。 文法上の特徴を書き出します。基本的にはシンプルな主語、述語の構文が好ましいですがユーザビリティだけを意識すると機械的な印象になるためバランスを意識します。該当がない場合には省略できます。重文や複文を使ってもいいのか、完全な文章である必要があるか、受動態か能動態かなどを指定します。
5. 約物。 ダッシュマーク、エクスクラメーションマーク、句読点、カッコなどの記号の使い方を記載します。
6. 漢字・ひらがな・カタカナ。 漢字・ひらがな・カタカナの使い方を記載します。

ボイスチャートのイメージ
たとえば「的確」「親身」「歓迎」というボイスの場合、チャートには、横軸にボイスを、縦軸にそのコンセプトや、使用する単語、文章のサンプル、文法や約物、漢字・ひらがなの制限を明記します。OK例だけではなく、NGな例を記載します。該当がない場合にはスキップして構いません。

ボイス 的確 親身 歓迎
コンセプト 誤りのない正式な情報を正しく提供する 生活に寄り添って話をする すべてのユーザーを喜んで丁寧に受け入れる
単語 - OK「そうだったんですね」 OK「こんにちは」
文章 OK「名前をカタカナで入力してください」 NG「承知いたしました」「用意してくださいね」 OK「入力してください」
文法 正確な文法だが、自然な読みやすさ 過度ではない敬語、堅苦しくない NG:重文や複文
約物 NG:句読点の省略 NG:!
漢字・ひらがな・カタカナ NG:意味のないカタカナ、ひらがなの使用 - -

ボイスに共通する主要な原則

デジタル体験におけるボイスの主要な原則となるのが「明確さ、完結さ、人間らしさ」です[*出典]。サービスのボイスを検討する際には、これらの3つの原則に沿うように考えます。

1. 明確さ。 ユーザーに理解してほしい情報を分かりやすく伝えます。操作に迷うインターフェースや表現はユーザーをいらいらさせます。
2. 完結さ。 不要な情報を省きます。ユーザーがサービスと接する時間は限られています。シンプル、手短で明瞭な書き方をします。
3. 人間らしさ。 インターフェースを通じてユーザーと会話をするように伝えます。略語や馴れ馴れしい言葉を使うわけではありません。ユーザーに対して、システムではなく人が話しているように書きます。

トーンを定める

トーンは、シーンに応じてどんな口調で話しかけるかを定めるものです。一貫したボイスの中で、ユーザーの状態に応じて、口調を変えて会話を行うイメージで作成します。性格を定めるボイスとは異なり、性格のうえで口調を設定します。トーンのイメージを深めるために、使用する場面や使用例をあわせて設定します。

トーンのイメージ

トーン 敬意 友好的 情報提供 簡明
イメージ サポーティブ、人間的 会話における指示 実務、情報提供 明瞭、無駄が一切ない
場面 解決に負担のかかるエラー 通常のエラー、タイトル ラベル、ディスクリプション CTA、リンク
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ほかにもたとえば、励ましのトーン「簡単なステップです。最後までやってみましょう。」、信頼感のトーン「この問題についてあなたが心配していることは承知しています。」、協力的なトーン「何か悪いことが起こったので、あなたの気持ちを理解しています。私たちはあなたにこれを知らせ、案内し、サポートしたいと思います。」といったトーンが考えられます。

[出典]
Michael J. Metts, Andy Welfle, Nick Madden『Writing Is Designing: Words and the User Experience』Rosenfeld Media、2020