プロフェッショナルライティングガイドとは

このガイドラインは、日本語ライティングの基本技術をまとめた文章です。参照先としているのは、欧米で標準となっているテクニカルライティング技術、日本国政府の公式文書、新聞社・出版社で定められている規準、著名な学問研究など、公的な判断に基づく規準です。できるだけ主観ではない基準を指針とすることで、文章を書く際のベースとなる技術として役立てることを目的としています。

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ライティングに技術が必要な理由

論理的な文章、公式な文章を、他人に正確に理解してもらうためには、書き手の技術が求められます。それは、読み手は楽しむために文章を読んでいるのではなく、情報を得るために文章を読んでいるからです。忙しい状況の中で短時間で効率的に情報を得るために、読み手は読み飛ばしながら文章を読みます。これを「拾い読み」と言います。集中して読む時に行われるディープリーディングとは異なり、読み手はどんどん飛ばして読んでいます。そのように全文をくまなく読まない相手に内容を理解してもらうためには、簡潔で誤解のない文章を書く技術が求められるのです。

アメリカなどの欧米諸国では、論理的な文章を書くための技術が、学問として教育されています。欧米の学生は、学校教育の中で「文章の書き方」を徹底的に学ぶのです。それに対して日本では、学校教育の中で「文法」を教わることはあっても「文章の書き方」を教わることはありません。そのため多くの人は、社会人になってはじめて、人に読んでもらうための文章の書き方がわからないことに気がつきます。しかもその後も、文章は自己流で書かれ、正しいフィードバックを受ける機会もほとんどありません。社会人経験が長い人でも、文章の書き方を正しい理論に基づいて教えたり、書いたりできないのはそのためです。

「書く回数を増やせば上達する」という誤解

日本では、多くの人が「文章をうまく書きたければ書く回数を増やせばよい」と誤解しています。学校教育でも「好きなことを思った通りに書けばいい」と教えられてきました。しかしそれは慣れるだけで上達しているわけではないのです。たとえるなら、ピアノを前に、「好きに弾けばよい」と言われた人が、難易度の高い曲を弾けるようにならないのと同じです。基本的な訓練を積まない限り、決して上達はしないのです。

プロの小説家や随筆家も同様に、訓練を重ねてはじめて自分の型を身につけます。思いつくままにたくさん書くことでプロになれるわけではありません。実際、プロの小説家の読書量は並大抵ではありません。書き方に関する研究を重ねた結果、不特定多数に読まれるための文章が書けるようになるのです。このように、文章力を鍛えたいのであれば、やみくもに書く回数を増やすのではなく、文章の作法を学んだり、よいフィードバックを得たりしながら技術を学ぶ必要があります。

欧米諸国で教えられる世界基準の「テクニカルライティング」

このガイドの基礎には、テクニカルライティングの考え方を採用しています。テクニカルライティングとは、欧米諸国で、論理的な文章を書くための技術として長年研究されている学問です。欧米の大学生は半年から1年間に渡り、専門教育科目としてテクニカルライティングの授業を受け、文章の書き方を学びます。たとえばミシガン大学やオックスフォード大学ではビジネステクニカルライティングコースとして、文章技術が学問として教えられています。テクニカルライティングで学ぶのは、論文だけではなく、あらゆるビジネス文章を書くために使うことができる文章技術です。様々な呼び方があり、別名、テクニカルコミュニケーション、プロフェッショナルライティング、アカデミックライティング、パラグラフライティングとも呼ばれます。もともとは、科学技術情報を効率的に正確に伝える技術でしたが、その文章技術が、仕事上のライティングに適用されるようになったと言われています[*出典]。世界中で採用されるテクニカルライティングは、文章を作る基礎となりほぼすべての業界で活用されているのです。

このガイドの目的

このガイドの目的は、ウェブサイト上の文章やビジネス文章を書く人のために、文章技術の情報を発信することです。読み手に情報を伝えるための文章で大切なのは、短く、要点が見つけやすいことです。必要な情報を収集するために読み飛ばしをしている人たちには、正しく短時間で情報を伝えることが求められるのです。たとえば、英国首相のウィンストン・チャーチルの言葉で次のような指摘があります。「われわれの職務を遂行するには大量の書類を読まねばならぬ。その書類のほとんどすべてが長すぎる。時間が無駄だし、要点をみつけるのに手間がかかる。同僚諸兄とその部下の方々に、報告書をもっと短くするようにご配意ねがいたい。」ここから分かるように情報を伝えるための文章を書く際には、読み手の時間をうばわないように書くことが求められるのです。

このガイドの対象

このガイドは、ライター、編集者、企業で文章を作成する方など、「情報を伝えるための高品質な文章」を執筆することを目指す、すべての人に向けて公開しています。

このガイドが対象としていないこと

このガイドは、すべての日本語文章や記事を対象とするわけではありません。メディアや企業ごとに独自の規準がある場合には、その規準が優先されます。また、日本語の書き方の標準を定義することも、他の日本語ガイドと競合することも目的としてしていません。小説、随筆やブログなどの文章にはあてはまらないことがあります。

言葉の使い方は日々変化するもののため、このガイドの内容も時間とともに変化します。変更された場合には、可能な範囲で一貫性を保つよう努めますが、ガイドの他の部分と必ずしも一致するとは限りません。

このガイドで採用する文法

このガイドは、特に断りがない場合は、文部科学省の学習指導要領に従う国語文法を基準として採用します。これは多くの日本人に馴染みがあり、ネットでの検索性に優れているためです[*参考]

このガイドの参考文献

本ガイドでは文章技術を向上させるための手法として、テクニカルライティングをはじめとした欧米の文章技法、日本国内で権威性の高い情報を選別して参照しています。そのため個人の主観にもとづく文章テクニックは対象としていません。

参考文献、出典はできるかぎり各ページの末尾に記載して出どころを明らかにするとともに、本ガイドの最終頁に一覧でまとめて記載しています。

[出典]
H. M. Weisman『Basic Technical Writing』Charles E. Merril Publishing Co., 1985
William S. Pfeiffer『 Pocket Guide to Technical Writing』Orentice Hall. 1998, p1.
[参考]
日本語の文法には、「国語文法」と「日本語文法」の2種類があります。「国語文法」は日本人が学校教育で習う文法です。一方、「日本語文法」は国際的な基準に照らし合わせ、1990年代を中心に発達した文法です。国語文法と日本語文法は、品詞の分類や、活用の種類などの多くの違いがあります。